研究系及び研究施設の現状 135
久 保 厚(助手)
*)
A -1)専門領域:物理化学、無機化学、分析化学
A -2)研究課題:
a) 伝送線型超広帯域 NMR プローブの開発 b)コレステリック液晶中の溶質分子の並進拡散 c) ランタノイド化合物の常磁性シフト
d)マジック角ホッピング重水素スピン拡散 NMR 法によるガラス性結晶ペンタクロロトルエンの局所構造の決定
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) NMR のプローブは通常、共鳴型の回路で構成されている。共鳴型のプローブでは数100 kHz程度の狭い周波数帯域 しかラジオ波を有効に試料コイルに伝えることはできない。このような点は四極子相互作用やナイトシフト等で非 常に幅広くなったNMR 共鳴線を観測する場合に問題となる。一方、伝送線プローブは同軸ケーブルと同様にある周 波数以下のラジオ波を均一に透過させるのでこのような欠点を回避することが可能である。反面、プローブの製作 には電気回路の計算と素子の配置に関する工夫が必要である。195Pt(86MHz)用の伝送線プローブの製作を行ってい る。博士課程の学生、市川君とともに、コイルの製作、標準試料(K2PtC l6水溶液)を用いた信号強度およびパルス長の 測定を繰り返した結果ほぼデザインが固まりつつある。あと少しでプローブは完成できると思っている。 b)光学活性の物質をnematic液晶に溶解させるとディレクターが螺旋状に変化するコレステリック液晶相に変化する
ことが知られている。この液晶を磁場に垂直な軸のまわりに回転させるとピッチ軸が回転軸に平行に揃い、先鋭化 したスペクトルが得られることが博士課程の学生、西山君の研究でわかった。またスペクトルの幅からピッチ軸方 向の拡散定数が求まる。従来のNMR 測定法では、磁場により螺旋構造がほどける、異なる13C の寄与が分離不可能等 の問題があり、コレステリック液晶中の分子拡散に関するデーターは数えるほどしかない。例えば右ねじのコレス テリック液晶中で互いに鏡像関係にある光学活性溶媒分子がどのくらい異なる拡散定数を示すのかについてデー タはない。このようなデータは光学活性分子間の相互作用について理論的研究の基礎となるとともに、液体クロマ トによる光学活性分子の分離を考える上でも重要な物理化学データーであると思われる。西山君が、試料回転に同 期したR F パルスを照射しピッチ軸方向の拡散定数の測定を行う方法を開発している。シュミレーションプログラ ムはほぼ完成している。予算が許せばプローブの購入をしたい。
c) 以前に実験を行ったPr(13CD313COO)3·D2Oのゼロ量子NMRのデーターを解析した。ランタノイド化合物ではスピン 軌道相互作用のためコンタクトシフトは角度依存性を有するはずであるがこの点に関する理論的取り扱いについ て答えが出せていない。シフトの等方値についてはダイポールシフトのみで再現可能である。シフトの異方値の一 致は等方値に比べ良くない。4f電子と伝導電子との相互作用は近藤効果と呼ばれ物性物理の領域で研究されてきた。 有機金属錯体でも近藤効果に相当する相互作用が C e(C OT )2等で存在するとされている。4f 電子と有機配位子との 電子相関は配位子上の13C 等の核のコンタクトシフトに反映されるはずである。NMR のデーターを磁化率測定等の 他の物理化学データーと組み合わせコンタクトシフトを取り出す必要がある。
d)現在、市川君がシュミレーションプログラムを書き終え大量の実験データーを解析中である。
136 研究系及び研究施設の現状 B -4) 招待講演
A. KUBO, T. P. SPANIOL, T. ITOH, F. IMASHIRO and T. TERAO, “Determination of magnetic susceptibility tensor and
electron-spin density of a paramagnetic lanthanide compound by high resolution solid-state NMR,” PACIFICHEM2000, Honolulu (U. S. A.), December 2000.
C ) 研究活動の課題と展望
伝送線プローブを完成させ、これを用いて金属や半導体微粒子のNMR 測定を行うこと、京大から継続しているテーマを終 わらせることが当面の目標である。NMRを中心に教科書的な原理の理解を容易にする題材で何種類の小さなテーマが作 れるかが今後の課題である。N M R は古いテーマではあるが 原理を考える上でおもしろい題材を提供してきたと思う。 Quantum C omputer、A diabatic B erry Phase、Pulse S haping、Multiple Quantum C oherence等。現在目にははっきり見えてな いもの、申請書を書くと支離滅裂となるテーマに一番興味を感じる。とりあえずもう1年がんばります。
*)2000年 4月 1日着任